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×ネタバレ感想文:「新世界より」 by貴志祐介

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僕の最も好きな作家の1人である貴志祐介が、久方ぶりに書き下ろした1000ページ以上に渡る大長編。その圧巻の分量もさることながら、中身のとことんまでの濃密さ、にも関わらずあっという間に読み切ってしまえる圧倒的な面白さ、そして綺麗にまとめあげながらもしみじみと考え込んでしまう読後の余韻の深さと、どれをとっても超一級の娯楽小説だった。

物語の簡単な筋を書くと、今我々が暮らしている文明社会が崩壊してから1000年以上が経過した遥か未来の日本が舞台。そこではすでに現在のような科学文明は失われ、わずか3000人ほどの人々が小さな町を作って生活していた。彼らは一見すると普通の人間のようだが、実は全員が“呪力”と呼ばれる超能力を当たり前のように使うことができる、サイキッカーだった。しかし彼らはその力を完全に制御しながら、一見するとユートピアとさえ言えるような恵まれた環境の中で幸福に過ごしていた。
しかしある時、“決して超えてはならない”と言われている八丁締めの外へ出てしまった子供たちが“あるもの”を見つけてしまったことで、隠されていたユートピアの真の姿が徐々に浮かび上がってくる。そしてそれは、想像を絶する事態へと繋がっていくのだった・・・、という感じ。
以下、ネタバレを含むので続きへ格納。
この作品のキモはなんといっても圧倒的なリアリズムだ。1000年後の日本、しかも超能力者たちの町が舞台というそれだけ聞くとトンデモSFみたいな設定でありながら、細部にまで至る徹底した描写と解説、世界観の作り込みによって、読む者がいつのまにかその世界に完全に引きずり込まれ、あたかもその世界の住人であるかのような錯覚さえ起こさせてしまうのは貴志祐介の卓越した筆力あってこそだろう。
特に生態系に関する凝りようは見事で、実際にこんな動物が存在してるのではないかと思わせてしまうほどに見事に造られた空想上の生き物たちが、これでもかと言わんばかりに次々と登場する。恐らく、この作品に取りかかる前に生物に関する相当な取材と勉強をしたのだろうと思う。

物語の流れとしては、最初の方はこの“異世界”の解説と、ユートピアの美しい情景が長々とつづられ、ともすれば退屈に思ってしまうことさえあるのだが、ある一点を超えた瞬間から展開が急加速し、そこから先はまさに止められない止まらない状態。しかもこのジェットコースターはタチの悪いことに、急転直下を3回も繰り返し続けるのだ。よって、特に下巻は一度読み出すと数時間は濃密な物語の世界から戻ってこられなくなってしまう危険性がある。と、そのせいでGWの丸一日を潰した当事者は語る。まさにオビの「空前絶後のエンターテインメント」という文字に偽りなしという感じだ。

冒頭でも書いたとおり、この作品の優れたところは3つ。1つは圧倒的なボリューム、1つは作り込まれた世界観が生み出す濃密な中身、そして残りの1つが物語そのものが生み出す読んだ後の深い余韻だ。

その余韻を生み出す要因はいくつかあるが、特に僕が強く印象に残ったのは、物語の最後の最後に明らかになったバケネズミたちの正体だった。それまでずっと早希や覚たち“人間”たちの視点で話が進んできて、バケネズミたちは一部に高い知力を持つ個体がいるものの、ほとんど人間以下の頭しかもたない野蛮で醜く残忍なバケモノ、そしてついに人間に反逆し多くの被害者を出した憎むべき敵、という位置づけで来ていたものが、スコーンと一瞬でそれが入れ替わり、実は読者はバケネズミの側の存在だったのだと明らかになった瞬間のえもいわれぬ感覚は言葉では言い表せない。
それまで強く美しく、理知的で理性的な存在だと見ていた早希や覚が途端に途轍もない怪物に感じられ、あれほど憎たらしく毒々しかったスクィーラがまるで知恵を振り絞り圧倒的な力を持つ支配者に立ち向かった勇者のようにさえ感じられてしまう。この視点の180度の入れ替わりは、これまでに体験した記憶がない。

もう一つ、この物語に深い余韻を残しているのが、最後の最後まで明らかにされなかったただ1つの大きな謎の存在だ。全編にわたって張り巡らされた多くの伏線が、見事なまでにクライマックスへと収束し明らかにされていった中で、ついぞ最後の最後まで早希の意識の遡上にさえ上らなかった大きな疑問点があるのだ。
それは、バケネズミが如何にして真理亜と守の子どもを得たのか、ということである。
話の最後に明らかにされた、悪鬼と化したように思えた二人の子どもは実は悪鬼にはなっておらず、ただ自分をバケネズミだと思いこんでいるだけだったという事実により、二人の子どもは物心つく前からバケネズミたちの手元に落ちていたことは確実だ。また、9、10歳という少年の年齢からしても、真理亜と守が2人で生きていくことを決意したあのときからそれほど経たずして少年が生まれていることも確かなようだ。
しかし、だとするとバケネズミたちが二人の子どもを生まれた直後に手にする方法は2つしか考えられない。
1つは、旅立った二人をただちに見つけ出し、二人の生活を気づかれぬように監視し、子どもができた直後の隙を見計らって急襲して強奪すること。そしてもう1つは2人がバケネズミを信用しているのを利用して“旅立つ前に”捕らえ、“子どもを作り生む自由を残しながら呪力だけを無効化”した状態で捕らえておくことだ。
しかしいずれにせよ、「どうやって?」という疑問符がつく。
だが、ここで伏線であるかのように描かれながら、最後の最後まで物語の核に絡んでこなかったある描写が思い出されてしまうのだ。それは、早希と覚が数年ぶりにシオヤアブコロニーを訪れたときのこと。数万規模に膨れあがったシオヤアブコロニーが、数十匹の評議員バケネズミたちによる民主議会制によって運営されていると聞いた早希が、では女王たちはどうなったのか、女王たちに会わせてくれとスクィーラに頼んで会わせてもらったときのことだ。
粗末な家畜小屋のようなところに押し込められた女王たちは、脳の一部の前頭葉を切除する「ロボトミー手術」を受けることで、“生殖能力は残しながら攻撃的な性質を完全に削ぎ落とされて”いた。それを見た早希は「もしこの手術が人間に施されたら」という危惧を抱くが、「前頭葉を切り落とすと呪力は使えなくなる」という覚の言葉に安堵し、以降忘れてしまったかのように口にしなくなる。
この場面は「ロボトミー手術」という新しい言葉が登場し、「人間に使われたら」という思わせぶりなフレーズによって非常に後々まで頭の奥にひっかかるシーンだったが、結局最後の最後までこの「ロボトミー手術」という言葉が再び登場することはなかった。これは、単にバケネズミの残虐性や冷酷さを際だたせるためだけに用意されたシーンだったのだろうか。僕には、とてもそうは思えない。

この作品が貴志祐介の集大成と言うことができるのは、「黒の家」で描かれた人間の業の恐ろしさ、人間そのものが一番怖いという貴志祐介のある種の哲学と、「クリムゾンの迷宮」で遺憾なく発揮された「異常な追う者」と「追われる主人公」の緊迫したスリル、「天使の囀り」で磨かれたリアリティを極限まで高める細部に至る作り込み、「ISOLA」で生み出された漢字の意味を使った伏線手法、そして「青の炎」で描かれた大人になる前の少年と少女の感情の機微に至るまで、今まで書き上げてきた全ての(ガラスのハンマーだけ思い浮かばなかったが)作品のエッセンスがちりばめられた上で、さらに空想上の世界という新たな要素を付け加えて完成された作品だからだ。
だからこそ、貴志祐介ファンはもちろんのことだが、これまで貴志祐介の本を読んだことがないという人にこそ是非とも読んでもらいたい。そして、貴志祐介という作家を好きになって欲しい。
これだけの作品を生み出せる作家は、間違いなく稀なのだから。
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コメント


はじめまして
私も最近この本を読み終えました
上下巻の中であれだけ壮大な世界に読者を引きずり込む貴志さんには敬服するばかりです
私もなぜバケネズミが人間の子を手に入れる事が出来たのか、ずっと気になっていたのですが、ロボトミー手術と併せて考えると全てぴったり組合わさりました
これでバケネズミが骨を持っていたことにも納得がいきます
しかし、、、人間にロボトミー手術とは。改めてバケネズミに恐怖を感じます。。

これからも貴志さんから目が離せませんね

by: kkwbird * 2011.02.01 00:06 * URL [編集]


はじめまして。
「ロボトミー」についてそうも読めるのかともおもいましたが、それはないと思います。理由は2つ。1つ目は「子供に薬物をしようしているのでは」という話で「貴重な人間の子供に万が一を考えそんな危険なことはしないだろう」と早季たちは結論をだしたが、「ロボトミー」に関しても同様のことがいえるとおもいます。2つ目は守たちがそういう状態なら2人目、3人目の悪鬼がいないのはおかしいと思います。「自分はバケネズミだ」と思わせるなら子供同士あわせなければいいし、あの野狐丸が予備を用意しないのか疑問です。

by: YUMETSU * 2012.11.09 11:47 * URL [編集]


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